脱炭素へ向けて熱視線
市場を広げるグリーンアルミ
最近まで「暑さが厳しい」と思っていたら、いきなり寒さを感じるようになりました。何やら秋の深まりを楽しむ間もなく冬が訪れてしまうのではないか、日本の魅力の一つである美しい四季はこの先どうなってしまうのだろうか、とも思ってしまう今日この頃。自らの肌で感じる急な気温の変化に戸惑いつつ、改めて地球環境の悪化は深刻なのだと感じます。サステナブル・SDGs・カーボンニュートラル、エシカルなど、環境にまつわる様々な言葉に触れる機会も大いに増え、世間に定着してきたのではないでしょうか。
世界では2050年の脱炭素社会の実現に向けて様々な分野で環境問題に対する取り組みが行われ、そのスピードの勢いは増すばかり。そんな中で気になったのが「グリーンアルミ」を取り扱った記事です。誤解はないとは思いつつお伝えしますが、緑色のアルミニウムのことではありません。
グリーンアルミニウムとは、二酸化炭素(CO2)の排出が少ない再生可能エネルギーの電力源や製造法で造るアルミニウム新地金(しんじがね)です。これがアップル社やBMW社など、海外の大手有名メーカーで採用が進められ、グリーンアルミニウムの市場が広がっているとの内容です。
ちなみに地金とは加工前の金属塊で、新地金は採掘した鉱石(ボーキサイト)を原料として作る新しいアルミニウム地金。このように一度もリサイクルされていないアルミニウムを「バージンアルミ」とも言います。日本の場合、新地金は100%輸入されています。
以前、本コラム「アルミが『リサイクルの王様』と言われる理由」で取り上げましたが、天然資源からアルミニウム地金を作った場合、その過程では大量の電力が使われます。その電力源は石炭火力が中心となっていて、CO2の排出量の多さが課題とされていました。グリーンアルミは、電力源に水力発電や太陽光発電などが使われ、二酸化炭素の排出を大幅に減らしています。そして、割高な価格でもグリーンアルミを調達する向きが出ているとのこと。いまや環境に対する姿勢は、ビジネスにおいても大きな価値を生み出しています。
グリーンアルミニウムに限らず、最近はグリーン◯◯◯といった言葉を見かける機会も多くなりました。「グリーン=緑色→自然」のイメージから付けているのかと思っていましたが、グリーンを形容詞で使うと「環境に優しい」の意味があるのですね。
私たち川島グループが手がけているのは、リサイクルによるアルミニウム再生地金です。鉱石の採掘や原料抽出の工程がいらない再生地金の製造は、新地金の製造と比べて必要なエネルギーはわずか3%。当然ながらCO2の排出量も少なくて済みます。日本アルミニウム協会の『アルミニウムVISON2050』では、再生地金1トンの製造でCO2の負荷は0.309トン。対して新地金では9.24トンとの数字が出ています。この点からも再生地金は資源を有効活用できて環境負荷の少ないことがメリットに挙げられます。ただし、純度の高さでは新地金にかなわず、簡単に全てを再生地金に、とはならないのも事実です。
アップル社の製品ではiPadをはじめ、多数のデバイスの外装に100%再生アルミニウムが採用されており、グリーンアルミニウムはノートPCの最上位機種に採用されるとのこと。
より良い未来へ繋ぐために、世界が脱炭素へ向けて大きく舵を切り、アルミ業界においても様々な努力がなされています。社会的な使命、技術の成長、価値と価格の関係性を考えながらどのような方向へ進んでいくのか。今後のグリーンアルミニウムの動向に注目です。
出典:「グリーンアルミ広がる」日本経済新聞. 2021-08-08, 朝刊, p4
一般社団法人日本アルミニウム協会「アルミニウムVISION2050」2021-09
https://www.aluminum.or.jp/vision2050/pdf/VISION2050_main.pdf(参照2021-10-25)